(その7)
これまでに話してきたように、豚や鶏、牛に与える配合飼料にはたくさんの種類の原料を使っています。これらの原料をそれぞれの家畜の種類や成長段階に合うように組み合わせて配合しているんです。
このグラフは、豚が成長するときに、体の中のたん白質の量(オレンジ色の点)と脂肪の量(青色の点)がどのように変化するのかを示したものなんですが、筋肉などの体たん白質の蓄積量は、体重の増加に伴ってほぼ直線的に増加するのに対して、体脂肪の蓄積量は肥育の後半に急激に増加してゆくのがわかると思います。ということは、肥育の後半の豚には、エネルギーをより多く含んでいる穀類や油脂などの配合量を増やした配合飼料を与えることが必要になるんです。このような成長段階による栄養要求量の変化は、どの家畜でもみられるために、それぞれの成長段階に合うような配合飼料を給与しているんです。また、家畜の種類によっては配合する穀類の種類を変えている場合もありますね。
穀類の種類を変えることで、なにかメリットがあるんですか?
例えば、トウモロコシとお米を比べるとわかるように、トウモロコシの実は黄色いですよね。これは、トウモロコシにはカロチンという油に溶けやすい黄色い色素が多く含まれているためなんですが、出荷が近くなった豚にトウモロコシを多く含んだ配合飼料を食べさせると、トウモロコシに含まれている黄色い色素が豚の脂肪に沈着して脂肪の色が黄色くなってしまいます。冬にミカンを食べすぎて手のひらの色が黄色くなった経験はないですか? あれも、ミカンに含まれている黄色い色素が皮下脂肪に沈着したためですし、鮭の身が赤いのも食べたエビなどの色素が移行しているためなんです。
豚肉をしゃぶしゃぶで食べる時を想像して見てください。お皿に盛られた豚肉の脂肪の色が黄色っぽいものより、白っぽいほうが、より美味しそうに見えるでしょう。だから、出荷が近くなった豚には、黄色い色素を含んでいないお米やマイロ、麦類などの穀類を多く与えて脂肪の色が白くなるようにコントロールしているんです。これは日本だけのことで、アメリカ人は豚の脂肪をあんまり食べず、脂肪の色をあまり気にはしていないようで、このようなことはしていないようですね。
逆に、鶏卵を生産してくれるニワトリ(産卵鶏)用の飼料では、カロチンを多く含むトウモロコシやDDGSなどを比較的多く使っています。というのは、鶏卵の黄身の色も、先ほど話した豚の脂肪なんかと同じように、食べた飼料に含まれている色素が沈着したものなんです。だから、天然の黄色や赤色の色素を多く含んでいるトウモロコシ、DDGS、パプリカ、マリーゴールドなどの飼料原料や、安全性が確認されている飼料添加物の色素をの配合量を上手に調整して、大体この程度の黄身の色の卵を出荷したいという目的に合わせた飼料を与えているんです。色素を全く含まないお米だけを多く含む飼料を産卵鶏に与えると、黄身と白身がほとんど分からないような卵が産まれるんです。卵の黄身の色というのは国によって好みが違うようですね。
そういえば、以前アメリカやカナダに旅行した時に食べた卵の黄身は白っぽかったような気がします。
たぶん日本人のほうがアメリカ人より色が濃い卵が好きなんだと思いますね。
黄身の色が濃い卵のほうが栄養豊富だという話を聞いたことがあるんですが?
実際には栄養価は大きく変わらないと思います。ただ、味やにおいには多少影響があるとは思いまよ。例えば、魚粉があまりにもたくさん入った飼料を食べさせると、卵の卵黄に魚のにおいがついて嫌がられることがあります。
これは牛乳にしても同じで、春の芽吹きの時期に放牧していっぱい草を外で食べた牛が生産した牛乳では牧草の香りがします。これは、笑いば話になるんですが、昔、バラエティー番組のディレクターから「牛にコーヒーを飲ませるとコーヒー牛乳が出るんですか」という質問の電話があって答えるのに苦労したことがあったんですが、よっぽどたくさんのコーヒー豆を食べさせれば多少コーヒーの香りがつくのかもしれませんが、そんな量のコーヒー豆を牛に食べさせたら、牛自体に悪影響が出てしまうんじゃないかと思います。
ですよね~(笑)