《薬剤耐性菌対策》
もう一つ大きなテーマとしてAMR(薬剤耐性獲得菌対策)があります。AMRはAntimicrobial Resistanceの意味ですが、日本でも、最近、飼料安全法が次々に改定されていて、飼料添加物としての抗菌性物質、つまり成長促進のための抗菌性物質の使用を、順次やめていこうという動きになっています。先ほどSFISのところで、新機能の原料の探索というのがあるとお話しましたが、ここにリンクしてくるのです。要するに、抗菌性物質をやめて成長効率が悪くなるとか、抗菌性物質に代替できるものとして、新規の機能性原材料が必要になってくるだろうということでリンクします。AMR対策では「ワンヘルスアプローチ」と呼んでいますが、人獣共通感染症と薬剤耐性という問題について、人間と動物の衛生は一くくりとして考えようというのが最近の大きな流れになっていて、それにも関わってきています。
「飼料添加物」として抗菌剤を使っているのは、日本とアメリカです。もちろん、抗菌剤を獣医薬として処方に基づいて飼料に混ぜることはできますが、成長促進のための添加物としての抗菌剤は、両国でも取りあえずやめていく方向になっています。動物医薬品として治療目的で使う場合にはワンショットで用いますが、成長促進目的の場合は常時低濃度で入れるので、耐性菌が生まれやすいとして問題視されます。獣医が処方して疾病の治療として適切な期間与えるのは問題ありません。
日本では、成長促進目的で入れているいくつかの飼料添加物について、独自に耐性菌獲得のリスク評価をしていて、ほとんど問題がないものがいくつか挙げられています。ところが他の国は、科学的というより政治的にやめようという枠組みで禁止するケースが多いようです。日本はその点では、科学に基づく政策をとっているといえます。しかし、世界的に見てユニークな存在になってしまっていて、まじめに対応しているけれどもあまり評価されていないという状況にあるのが残念です。
《機能性物質に関するカナダの取組み》
上の図の最後にあるカナダの取組みですが、先ほどお話しした機能性原料のカテゴリーの中に、抗菌性物質の代替機能を持つという新しい明確なカテゴリーを作って、30原料ぐらいの品目を分類しています。そうすることによって、これらの物質に明確な位置づけを与えて、代替飼料原料として利用可能にしているのです。たとえば、有機酸やプロバイオティックスのような生菌剤、すなわち乳酸菌飲料のようなものがあります。また、酵素やプロピオン酸のような有機酸も入ります。化合物もあるし植物天然物もあります。このようなものをうまく組み合わせて、人間も動物も、さらには野生動物も含めた生物の連鎖を踏まえてきちんと考慮していくということです。
この取り組みで「抗菌性物質の代替機能」を持つカテゴリーの原料の範疇に入るものには、腸内細菌叢を整えるような物質を含めていろいろな物質があります。また、このカナダの仕組みでは効果効能をうたうことが可能で、製造事業会社が生産者に対して伝えていける仕組みになっています。そうすることによって、抗菌剤の使用を抑えていく流れを促進しようという考えです。例えば日本では、薬事法で医薬的な表現をしてはいけないと言われています。したがって、効能をうたうことはできません。食品では、機能性食品のように特定の機能を表示することが可能ですが、飼料ではそれができないのです。人間の機能性食品から始めて、動物にもいいという流れを作り、「機能性食品で人間にいい」から「動物にもいい」という導線を引けば、飼料でも効能を表示することが可能になりそうな気もします。
EUでも機能性飼料原料としての承認を受ければ、域内各国対応で例えば「特定の疾患のリスクを低減する」というような効能をうたっていいことになっています。EUはこの方面では結構進んでいて、成長促進としての抗生物質をいち早く禁止したのもEUでした。おそらく、日本も基本的にはそういう方向に進んでいかなくてはならないのだろうと思われます。
(土橋裕司)