伝えること、理解できること

2016年6月30日に開催された「食のコミュニケーション円卓会議」定例会でお話しさせていただきました

リスクコミュニケーションを考える時、人間の意識、脳の働きの厄介さを感じてしまいます。「安全安心情報に注意は向かない」が、「危険不安情報には過敏に反応してしまう」。これは、命を守るためには当然の反応とも言えます。

専門家がどんなに科学データを駆使し客観的な情報を伝えても、一度刷り込まれた心配はなかなか払拭できません。状況によっては身近な人の「大丈夫だよ!」の一言を盲信してしまうこともあります。結局は自分が良しとする主観的な判断しか我々は取れないのではないでしょうか。

どんなに正しいことでも結論の押し付けには、反発が沸々と湧いてくるものです。自分が考え選択した結論を修正することは結構つらいもので、経験が柔軟な思考や対応の妨げとなることもあり、かなり厄介です。

そんなことを考えていたら、市民団体「食のコミュニケーション円卓会議」6月30日定例会で、日本の畜産や飼料産業の現状について話題提供することになりました(話題提供の内容は、添付資料をご覧ください)。類似した話題内容を大学生や同業者に話すことは何度か経験していますが、今回は違います。さまざまな土俵を持ち、知識も経験も豊富で、問題意識の高い意欲的な方々が集まる団体の定例会であり、返り討ちに合い、お江戸の街に倒れることになっても不思議ではありません。そんな不安を抱きつつ、当日を迎えました。はたして鋭い太刀捌きの連続で、満身創痍となったものの、かろうじて一命は取り留めることができました。そればかりか、ずうずうしくも懇親会にも参戦し、たくさんの刺激を受けて、帰りの高速バスのシートに腰を落としたのでした。

円卓会議は異業種交流の場でもあり、新鮮な発想や気付きが満載でした。その中で、日本の飼料産業の一端を伝えることができたことは、この上ない喜びでした。やはり、いろいろな立場の人々との交流は大切であることを再認識させられたのでした。

相手に伝え切れたかと結果に思い悩むより、失敗であれ成功であれ、何か一つでも次の糧に出来たと自分が感じられれば良しとする。そんな思いで傍らに住まい、対話を続けることが大切ではないでしょうか。

リスクコミュニケーションでは、WIN-WINの関係を求めるより、お互いが少しずつ譲り合いながら、全体の理解度を深め結論に至る「三方一両損」的な関係が大切ではないか。そんな事が頭の中を往来する今日この頃です。

(多田眞一)

関連資料

・食のコミュニケーション円卓会議定例会「飼料を巡る話題」(PDF)