飼料工場見学から学ぶ遺伝子組み換え作物

2017年10月26日~28日、北海道の飼料製造、畜産生産の現地見学会に参加しました。26日午後、釧路空港で札幌大学経済学部の学生25名、先生方と合流し、飼料会社へ向かいました。見学の前に、飼料会社の方が日本では、ほぼ全てのトウモロコシを輸入に頼り、そのほとんどは米国から輸入されているという状況をお話されました。

米国から日本に輸出されるトウモロコシ約1600万トンの約7割は遺伝子組み換え作物と言われています。遺伝子組み換え作物は世界28カ国、約1億8,500万ヘクタール(日本の国土の約4.5倍)で栽培されています。なぜそのように多くの国で栽培されるようになったのか、後で調べてみると、食糧供給の増加で食料の安定供給を支える、農薬の使用量を削減する、農業生産者の収入が増え、生活向上に役立つ、温室効果ガス削減にも貢献するなどいくつかの重要な理由があることがわかりました。

遺伝子組み換え作物の安全性確認(食品、飼料、環境)については、国が科学的に行っています。これまで20年以上、遺伝子組み換え作物は食品や飼料として利用されており、健康に悪影響を与えたと確認された事例は無く、厳しい安全性審査を経た製品のみが流通しています。

輸入されたトウモロコシの大部分が、牛・豚・鳥などの飼料用途となっているのですが、実は、私たち消費者は家畜の飼料のことをほとんど知らないのではないでしょうか。食品スーパーの売り場に並んでいるのは主に切り身になった肉なので、牛や豚が成長するためには毎日餌が必要だという当たり前なことに思いが至らないのかもしれません。

日本は、世界から大量の遺伝子組み換え作物を輸入し、食用油の原料や家畜の飼料として利用しています。しかし、国内での遺伝子組み換え作物の商業栽培については、強い反対運動の様々な影響で一切行われていません。このことが、安全性に問題があるから栽培を禁止しているのだという誤解を招いている側面もあるように思います。

遺伝子組み換え作物と言えば、アンケート調査などを見ると、いつでも6~7割の人は不安を感じると答えています。人々の不安を創り出している要因は多々あると思いますが、その中心にあるのは、テレビや新聞、週刊誌などのマスメディアからの情報と、納豆やみそ、豆腐などに書かれている「遺伝子組み換えではない」という表示のせいではないかと考えています。任意表示である「非組み換え」を強調した商品をスーパーに行くたびに目にしていると、「組み換え食品は危ないに違いない、だからわざわざ組み換えでないと書いているのだろう」と、つい思っても仕方がないように思えてきます。

私たちの今の豊かな食生活は、家畜の飼料のことひとつをとっても、遺伝子組み換え作物の恩恵を受けて成り立っているということが分かります。食糧を全て自国で賄うことができない日本ですから、多くを輸入に頼らざるを得ないことや、大量の輸入トウモロコシのおかげで日本人の食生活が成り立っていることを、事実として正面から受け止めることも必要なのではないかと思います。

遺伝子組み換えという言葉を聞いたとたんに、「危なそう」と思う気持ちを少し押さえて、不安になるような科学的な根拠があるのかどうかを冷静に考えてみるきっかけとして、飼料工場の見学は、ぴったりの機会になるのではないでしょうか。飼料工場の見学のイントロダクションとして、遺伝子組み換え作物についての解説は、重要な意味と意義を持つことを実感しました。

食のコミュニケーション円卓会議 市川まりこ