パナマ運河の現状と新パナマ運河の開通

太平洋と大西洋を、中央アメリカのもっとも細い部分を貫いて結んでいるパナマ運河は、全長約80キロメートル。海上輸送の時間とコストを大幅に節約する近道を提供しています。2016626日に新しいパナマ運河が開通しましたが、その前からある旧パナマ運河は1914年に開通し、これまでの100万隻以上の船舶が航行してきました。旧パナマ運河は2レーンの閘門(こうもん、英語ではlock)を使って船舶を海水位から海抜26メートルのガトゥン湖まで持ち上げて大陸分水嶺を超えさせています(図1)。

 

簡単にパナマ運河のようなロック式運河のメカニズムを説明します。船舶を高い水位から低い水位へ進めるためには、閘門内の水位を注水バルブによって高水位側のレベルに合わせ、ゲートを開いて閘門内に船舶を進めます。次に両方向の注水バルブを閉じると同時に高水位側のゲートを閉じます。その後、低水位側の注水バルブを開くことにより閘門内の水位を低水位側のレベルまで下げ、低水位側のゲートを開いて船舶を低水位側に進めます。低い水位から高い水位への進行は、反対の手順で行われます(図2)。

 

写真16は旧パナマ運河、写真710は新パナマ運河の船舶通航の様子を写したものです。旧パナマ運河のミラフローレス閘門の右側が高水位側、左側が低水位側になっています。写真1では、水門が閉ざされていて水位の差がはっきりわかります。写真2では2レーンともに高水位側から船が入ってきています。閘門に船舶が入ると後方の水門が閉ざされ、閘門中の水が排水されて水位が下がっているのが写真3でわかります。奥のレーンでは、レーンをはさむように敷かれたレールを機関車が走り船舶を曳いて水門を通過していっています(写真4)。手前のレーンの船舶も開かれた水門を通って(写真5)、低水位側へ進んでいきます(写真6)。さらに前方にもう一段の閘門があり、それを通過すると太平洋に出ることができます。写真78はガトゥン湖から新パナマ運河に入ってくる自動車運搬船です。新パナマ運河では旧パナマ運河と異なり、タグボートに曳かれてレーンに入り、レーンの中は機関車ではなくタグボートにより曳航されます(写真9)。写真奥に水の溜まったプールが見えますが、新パナマ運河では、水門の開閉に伴って使われる水の循環をしていて、約6割の水資源の節約を可能としています。船舶が閘門に入ると、水門が閉じられて、奥に見えるカリブ海と同じ水位レベルになり、カリブ海に出ていきます(写真10)。

  

パナマ運河の1914年の開通時から現在までの通過船舶数と貨物トン数を見てみると、1970年代から船舶数は横ばいで推移していますが、その後も通過貨物トン数は右肩上がりで増加しています(図3)。これは船舶の大型化の結果であり、新パナマ運河による大型船舶への対応の必要性を表しています。パナマ運河を通過する貨物の約7割が米国からあるいは米国向けの貨物です。中国が約2割、チリ、ペルー、日本が約1割ずつとなっています(表1)。また、アジアと米国東海岸との輸送が約5割を占め、そのほかに南米西海岸と米国東海岸、南米西海岸とヨーロッパ、中米西海岸と米国東海岸、ヨーロッパと米国・カナダ西海岸間の輸送に使われています(表2)。貨物の種類別で見ると、コンテナが12,000万トン、ドライバルクが6,500万トンとなっています。さらにタンカー(6,500万トン)、車両運搬船(5,000万トン)と続きます(図4)。穀物は、2016年度では、4,140万トンが通過していて、コンテナ(4,080万トン)、原油と石油製品(4,170万トン)と並んで主要な貨物の一つとなっています(表3)。穀物しては、もっとも多いのがソルガムの1,190万トンで、トウモロコシが1,030万トン、大豆が1,020万トンと続いています(図5)。近年の傾向としてソルガムの増加が顕著ですが、これは米国産ソルガムのガルフから中国への輸出増が原因と思われます。2016年度の穀物の総通過量の減少は大豆の通過量の減少によるものですが、海上運賃の下落によって米国東部からアジアへの輸送について喜望峰廻りの長距離輸送でも運河通行よりコストメリットが出たためにシフトしたのも一つの理由であると思われます。

  

  

 

新パナマ運河の大きな特徴の一つは旧パナマ運河より大きな船舶の通行が可能になったことです。パナマ運河を通れるサイズの船舶はパナマックスと呼ばれますが、新パナマ運河を通れるサイズはニュー・パナマックスと呼ばれています。表4に示すように、従来のパナマックスが5万トンクラスなのに対し、ニュー・パナマックスは12万トンクラスになります。パナマ運河公社によれば、ニュー・パナマックスサイズのコンテナ船、スエズマックスのタンカー、ケープサイズのドライバルク船、より大きなサイズの天然ガス運搬船、客船を含めて、新パナマ運河を通過できる船舶のバリエーションが顕著に広がったとのことです。新パナマ運河が2016626日に開通してから2017213日までのおよそ8か月の間に、合計971隻の船舶が通行しました。そのうちの820隻がニュー・パナマックスクラスで、151隻がパナマックスクラスでした。ニュー・パナマックスのうち、コンテナ船が430隻(44.3%)、LPG船が253隻(26.1%)、天然ガス運搬船が83隻(8.5%)、RORO(ロールオン・ロールオフ貨物専用フェリー)船が21隻(2.2%)、ドライバルク船が27隻(2.8%)、タンカーが6隻(0.6%)であり、パナマックスが151隻で15.6%とのことです。

 

新パナマ運河の開通や、世界各地の港湾で拡張や浚渫が行われるようになり、大型船舶による効率的な海上輸送がさらに加速されてきています。日本でも国土交通省が国際バルク戦略港湾のプロジェクトを開始し、港湾機能の充実が図られています。その一つが北海道釧路港で2016年に始まり、現状の吃水12メートルの岸壁の沖合に荷役バースを新設することにより吃水14メートルの工事が進められています(写真1112)。さらに将来は新パナマ運河に対応する船舶のために水深16メートルへの増深が計画されています。

 

日本はパナマ運河を利用する貨物輸送では第5位であり、その約1割を占めています。年間1千万トンを超える米国産を含めた穀物を輸入する日本にとって、運河の輸送能力が拡大することは望ましいことです。今後も、海上輸送の効率化とそれに対応したインフラの整備が輸送経路、輸送船、そして日本の港湾でさらに進むことが期待されます。