札幌大学と「食のコミュニケーション円卓会議」メンバーとの道東訪問記

2017年10月26日から28日まで、「日本の畜産の将来を考える会」では、会長の飯田氏が教鞭をとる札幌大学の学生と、食品安全について考える「食のコミュニケーション円卓会議」のメンバーとともに、道東の畜産関連施設を訪問しました。

札幌大学は、札幌近郊の藻岩山を望むゆるやかな丘陵地に位置し、広さ約25万平方メートルのキャンパスに、北海道を中心として全国各地から集まった約3,000人の学生が学んでいます。また、「食のコミュニケーション円卓会議」は、さまざまな立場の人々が,食について知識を高め,お互いの立場への理解を進めていくことによって,より良いコミュニケーションが生まれ,望ましい食生活の実現を目指している団体で、円卓を囲むようなフラットな立場で実りのあるコミュニケーション活動を行い,得られた成果を,意見や提案,提言などの形で,広く人々へ繋いでいくことを趣旨としています。

今回の見学会には、札幌大学からは飯田氏( 地域共創学群経済学専攻教授)、武者氏( 地域共創学群地域創生専攻教授)と学生さんたち約20名が参加しました。また、「食のコミュニケーション円卓会議」からは代表の市川氏をはじめとする5名が参加しました。

初日の10月26日、最初に、釧路市にある道東飼料株式会社を訪問しました。道東飼料では、大久保修市社長のご挨拶の後、概要の説明をしていただきました。道東飼料釧路工場は牛の飼料専用の工場(日本では、BSE予防措置として、牛用飼料とその他の家畜用飼料の製造ラインを確実に分離する措置が取られています)で、酪農の中心地で日本全国にいる乳牛150万頭のうちの80万頭、肉牛300万頭のうちの65万頭が飼育されている道東地域で、安全性と生産コストに優れた飼料を提供しているとのことでした。平成15年の操業開始時には月産26,000トンの生産量であったものが、現在では45,000トンまで増加しているとのことでした。また、釧路港が「国際バルク戦略港湾」として国のプロジェクトにより拡張され、水深が12メートルから14メートルになり、より大型の船が寄港できるようになったこともお話ししてくださいました。概要の説明の後、工場見学をさせていただきました。人数が多かったので、2班に分かれての対応で、大久保社長自ら1班のご案内をしてくださいました。

  

翌日は北海道畜産公社の十勝工場を訪問し、2016年3月に操業を開始した最新の第3工場を見学しました。この工場は、高度な衛生管理と牛肉輸出を目的とした肉用牛専門の施設とのことでした。工場の会議室で、まず、と畜場の紹介と、と畜過程の説明のビデオを観ました。ビデオは動物をと畜、加工するということの意味を率直に考えてもらおうという、北海道畜産公社の思いから、あえてと畜の過程をすべて解説するものでした。この思いは、ビデオを観た札幌大学の学生の心の中にも、「生き物」の命をいただいているということを深く考えさせるものであったと思います。そのあと、高嶋和則道東事業所長と井村威実十勝工場長からの概要説明と質疑応答を行いましたが、その間も、フロアで行われている各工程を映したリアルタイム映像が流れていました。

その日の午後は、暖かな日差しに恵まれた、音更町の西田農場を訪問しました。農場主の西田純一さんは今年80歳になられますが、元気で畑仕事をされています。ちょうどお昼時だったので、農場で収穫されたバレイショとカボチャを蒸かしたものを全員でご馳走になりました。バレイショもカボチャもホクホクしてとてもおいしかったです。西田さんは7ヘクタールの農地で飼料用のトウモロコシ(デントコーン、酪農家に販売)、小麦を生産しているほか、家族で食べる量のバレイショやカボチャを作っています。毎年小麦の収穫後から11月に雪が降る前までの間にはエンバクを栽培し、緑肥として漉き込んでいるそうです。雪解け後の4月下旬にエンバクの緑肥と魚粉だけを肥料に使って小麦とトウモロコシを作っています。

西田さんは2004年に米国を視察し、その時に遺伝子組み換え技術の企業の研究所を訪問し、そこで聞いた化学肥料や農薬を使わない農業技術に感銘を受けたとのことです。ぜひ「空気中の窒素を固定して利用できる作物を作ってほしい」と願い、「遺伝子組み換え作物は良くない人が作るもの」だという一部の非遺伝子組み換え作物を売り込む人たちのために悪者にされてしまったと残念がっていました。

  

2日目の午後には雪印メグミルク株式会社の大樹工場を見学しました。大樹工場は主にチーズを製造している工場で、製造されるチーズの半分は原料として出荷し、残りの半分で6種類の家庭用ナチュラルチーズを出荷しています。特に、「さけるチーズ」はなんと毎日50万本(7,500ケース)も生産しているとのことです。大樹工場は昭和14年に集乳所として建設され、昭和32年にゴーダチーズを生産したのがチーズ製造の始まりだったそうです。ちなみに「さけるチーズ」は意図して開発したものか偶然できたのかを聞いてみたところ、偶然できたものだとのことでしたが、詳しい作り方が教えてもらえませんでした(残念!!)。説明の後、ここでも2班に分かれて工場見学をしました。1班は井上剛彦工場長自らご案内いただきました。また、工場には、以前オリンピックに出場した選手だったという方もいらっしゃいました。さすが北海道ですね。

2日目の最後は、「食のコミュニケーション円卓会議」のメンバーの方々と札幌大学の学生との意見交換の場が設けられました。メンバーからは食中毒、食品表示、そして遺伝子組み換え作物の話題が提供され、学生の皆さんは興味深そうに聞き入っていました。

学校の予定のために2日目の夜に帰札した学生を除いたメンバーは、3日目に十勝の芽室にある大野牧場を訪問しました。大野牧場は30頭の牛の牧場として昭和61年の開設された農場で、ご案内ただいた代表取締役の大野泰裕さんは4代目だそうです。現在では肉牛の保育、育成から肥育まで手掛け、ホルスタインのオス2,000頭、和牛・ホルスタインF1が2,000頭の4,000頭と100頭の和牛を生産しています。また、130ヘクタールの畑で大豆、デントコーン、エンバク、牧草を生産しています。牛の飼料としては非遺伝子組み換えの原料を用いて、抗生物質のモネンシンを添加していない飼料の給餌と、規格外小麦(年間1,300トン)や米ぬか、飼料米などの地場で生産される原料も用いています。理想としては純国産飼料にしたいとのことですが、年間12,000トン必要な飼料をすべて国産で賄うのは不可能だそうです。生産する牛肉や「みらい牛」というブランドで高島屋などに出荷されるほか、全国各地で販売されています。

大野牧場では「カウカウビレッジ」というレストラン・カフェを六次産業化の一環として行っています。また、牛肉を使ったカレーやコンビーフ、ビーフシチューなども検討したそうですが、ロットが小さいために価格が割高になり、うまくいかないそうです。一行はこのレストランでおいしいハンバーグやステーキをいただきました。

3日間の短い行程でしたが、飼料生産、畑作や畜産の現場、と畜施設から、乳製品製造まで訪問することができました。今回の訪問や見学で学んだことが、学生の皆さんや食の安全の情報発信をする皆さん方の今後のお役に立つことを、「日本の畜産の将来を考える会」として心から願っています。