豚流行性下痢(PED)の発生と食卓への影響について

 養豚界を揺るがす伝染病が国内外で流行しました。豚流行性下痢(PED、PEDについて詳しく知りたい方は、豚流行性下痢(PED)についてをご覧ください)が世界的に流行し、多数の子豚が死亡しました。既に、1970年代にはPEDの存在は日本を含めた諸外国で確認されていましたが、2013~2014年の世界的ボーダーレスのPEDの流行、いわゆるパンデミックになったのは初めてのことでした。
 PEDの原因はコロナウイルスで、豚が感染すると嘔吐や下痢などがみられます。母豚の場合、嘔吐・下痢に加えて食欲減退、発熱、泌乳量の減少・停止も認められます。哺乳豚、とくに10 日齢以内の新生子豚では黄色水様性下痢を呈し、多くの場合、栄養不良や脱水症で死亡します。育成豚、肥育豚や雄豚も発症しますが4日~1週間程度で快復し、死亡することはほとんどありません。
 国内では、1996年にPEDがアウトブレイクし、約4万頭の子豚が死亡したことから、本病は家畜伝染病予防法の届出伝染病に指定されました。その後、行政の監視下でコントロールされていました。しかし、2013年10月1日に沖縄県で従来のPEDとは異なる新しいPEDが発見された後、全国各地で続発し、計39都道県で1,204件、1,763,103頭が発症し、536,010頭が死亡しました(2017年3月15日現在)(図1, 2)。

 その新しいタイプのPED は、2010年代にはすでに中国などアジア諸国において流行しており、2013年から2014年にかけて米国、カナダ、メキシコ、韓国、台湾、ウクライナおよびイタリアなどに拡大し、そして日本にも侵入し、パンデミックとなりました。米国はヨーロッパやアジア諸国と異なり、PEDのない国でした。2013年4月に、米国で初めてPEDが発生し、その感染拡大は35州、6,421農場以上(2013年4月~2014年4月27日)に及びました。このことから2014年6月5日から米国内でもPED発生に関する法的な報告義務が課せられるようになりました。その後も28州、1,571農場(2014年6月~2015年10月7日)で発生し、合計700万頭以上の豚が死亡し、全米における飼養豚の7-8%あるいは10%以上の損失があったとされています。米国で最初に発見されたPEDウイルス株は中国で発見されたPEDウイルス株と遺伝子学的に近縁でした。中国からの米国に向けた飼料輸入用の「bulk containers (“feed totes”)」がPEDウイルスに汚染し、米国内に侵入した可能性が指摘されています。日本にもアジア地域(中国または韓国)または北米地域から物または人を介して国内に侵入した可能性が高いとされています。農林水産省では、PED疫学調査委員会およびPED防疫マニュアル策定検討会が立ち上げられ、疫学調査結果および防疫マニュアルが2014年10月に公開されました。
 このように米国では、700万頭以上の子豚が死亡し、豚の生産性が大きく低下しました。日本は米国から大量の豚肉を輸入していましたが、2013年から徐々に減少しています(図3)。また、国内でも約50万頭の子豚が死亡し、豚の生産供給が低下しました。そのことが一因となり、2014年、2015年の国内の豚肉価格は高騰しました(図4)。この豚肉価格の高騰はPED発生の影響ばかりではありませんが、その大きな一因には違いありません。

 私たちは、養豚場のバイオセキュリティを高く維持し、豚を健康的に育てるためのサポートをしています。養豚場のバイオセキュリティとは、農場外から病気を持ち込まない、万が一、病原体が侵入した場合、それが農場内で拡大しないようにし、速やかに清浄化させ、農場の外にそれらの病原体を持ち出さないための衛生管理です。例えば、養豚場の見学などは自由には出来ません。農場主から許可された場合、農場の規則に従います。殆どの場合、衣服・履物を脱いで、シャワーで頭髪を含め全身を洗った後、農場専用の衣服や履物に交換してもらって中に入ることが出来ます。ペンやカメラなどは極力持ち込まないようにします。また、見学後、農場を出るときもシャワーしてもらいます。これをシャワーイン・シャワーアウトと呼んで、農場の中と外を明確に境界線引きしています。外から入る人だけではなく、車や物などについても同様に厳重に監視・管理します。私たちは、安全で美味しい豚肉を安定して消費者の皆様の食卓にお届けするために、家畜疾病の調査・研究や畜産関係の人材育成などの面からサポートしています。

(末吉益雄)